【Everybody’s Gone to the Rapture -幸福な消失-】レビュー(プラチナトロフィー獲得後)
このレビューにはネタバレを含みます。
詳しい内容を知りたくない方はご遠慮願います。
概要
「Dear Esther」の開発会社チャイニーズルームとSCEサンタモニカスタジオが開発し、2015年8月に発売されたアドベンチャーゲーム。
イギリスの田舎町「ヨートン」から人々が全員消失した。
誰もいなくなった町を訪れたプレイヤーは各所に残された人々の想いを辿り、人々が姿を消した謎を探りながら、最後の時を迎えた人々の想いを、そして世界の終わりに起きたドラマを追体験していきます。
ストーリー・システム
1984年月6日 06:37am
公式ページより
みんな、消失した。
この物語は、世界の終焉から始まる。
世界の終わりを、より美しく。
詩情すら漂わせる美しさで再現された1980年だイギリスの農村で唯一無二の物語体験。
世界の終わりを、より自由に。
村を自由に歩き回って、人々の生活、絆、裏切りの断片を見つけ出し、平凡な人々におそった「悲劇」を再び紡ぎだせ。
世界の終わりを、より感動的に。
国際的に知られている作曲家Jexxica Curry氏によるオリジナル楽曲が舞台の背景と融合。
世界が終わるとき、初めて気づく。人生は儚く、美しい。
何の説明もなく、いきなり町にポツンと放り出されたプレイヤー。
まず美しい景色に圧倒されるでしょう。あたりを見渡しても誰もいない、まさにゴーストタウン。
それでも不気味に思ったり、不安や恐怖を感じないのはこの美しい情景のおかげではないでしょうか。
プレイヤーは基本的に歩くことしかできません。厳密にいうと走ることも可能なのですが、走ってみても歩く速度と違いが分からないレベルです…(;^ω^)
ここには人も、ゾンビもモンスターもいません。
美しい田舎町をゆっくりとしたスピードで歩き、残された人々の想いや、オブジェクトにインタラクトして、この町が消失した時間までを追体験していきます。
そう、このゲームを簡単に表すなら美しい景色の中での散歩。
この町に住んでいた人、訪れていた人、それぞれのストーリーを世界の終焉を迎える時間までどのように過ごし、どのような想いだったのか。と同時に、なぜ人々は誰もいなくなったのか?その謎も同時に解き明かされていきます。
プレイヤーが歩いていると、神秘的な光のオーブが現れます。そのオーブは人々の想いへと導いてくれ、その時その場所で何があったのかをヨートンの町各所で体験することができるのです。また、ラジオや電話にインタラクトすることで、会話や放送を再生でき、そうしてたくさんのパズルのピースが最終的にひとつのものとなり、終焉の謎そしてこのゲームのメッセージが明らかになるのです。
以下ネタバレを含むストーリーを説明。
登場人物が結構いるので誰と誰がどのような関係なのかわかりづらいところも。
このゲームはジェレミー編、ウェンディー編、フランク編、リジー編、スティーブン編、ケイト編の6つのパートに分かれていて、そのキャラクターが中心となった話が展開されます。
ストーリー通してのメインキャラクターはキャサリン・ケイト・コリンズ博士と、夫のスティーブン・アップルトンの科学者夫婦です。スティーブンがケイトと結婚後、久しぶりに故郷のヨートンへ帰省。地元ヨートンには天文台があり、そこで2人は仕事をすることに。
ある日、奇妙な謎の光の存在と遭遇します。その光がきっかけとなり、異変が起こり始めました。
最初の異変は鳥や動物たちが謎の死を遂げるように。次第にそれは人間にも拡がり、鼻や耳からの原因不明の出血の症状が見られはじめました。地元のウェイド医師の記録によると、脳腫瘍と同じ脳内圧とのこと。しかし腫瘍の拡大が異常な速さで進行し、血液中には光の斑点のようなものが見られるのが特徴的で、未知の病気だったのです。
初期症状は主に鼻血と頭が割れるような激しい頭痛。しだいに出血量が増していき、最終的には死に至るというもの。
爆発的に感染したその病に徐々に住民は死亡したり、姿を消すようになりました。スティーブンは地方政府にこの地域の検疫や道路の遮断、電話回線の切断を要請し、ヨートンは隔離状態となります。しかし、隔離の真実は明かされず住民たちにはインフルエンザだと伝えられます。謎の光の生命体は、空気中だけでなく電話回線ですら感染経路になることを発見したスティーブン夫婦。感染のスピードと症状の度合いから、苦渋の決断で神経ガス爆撃の要請に踏み切るのでした。
後半の章では、スティーブンが皆を救えなかったこと、ガス爆撃以外に道がなかったこと、愛する家族や友人たちの命を奪うことになる決断であったことの苦悩を打ち明けています。そして光の生命体についてスティーブンとケイトが導き出したもう一つの事実。「それ」は僕たちの中にもいるんだ、ということ。スティーブンの見解は、「それ」は動物や人間に感染し、このヨートンを出て世界を破滅へと導こうとしているため、隔離ではなくキャリアの排除が必要である。そのために空爆によるエネルギー源の排除が必要だと説得したのです。
「それ」は電話回線や通信手段を遮断しても、次々と適応して遮断を回避していき、ラジオの電波ですら移動可能になっているという。すでに谷全域の住民が感染者だと訴えています。
そして物語は最終局面へ
空爆ののち3時間、スティーブンは感染者すなわちヨートンの住民全てが死んでいることを確認し、自殺する準備を終えていました。床にはまかれたガソリン。手にはライターが。
そこへケイトが「パターン」と呼ぶ「それ」が現れ、スティーブンに接触しようとしてきます。自分が乗っ取られることを防ぐ為にライターに火をつけた時でした。光のパターンの中にケイトのイメージが見え、思わず手を差し伸べたスティーブン。手から落ちるライター。そのまま足元のガソリンに引火し、スティーブンは息絶えました。
最後は天文台でケイトの録音した音声で締めくくられます。以下全文
「終わりが近づいてくる。怖くはない、一緒にいるから。みんなと離れて暮らし、ようやく理解した。
触れて属することができなかったと。でももうどうでもいいこと。みんないなくなって私達もそこへ行く。
離れ離れで生まれ果てしない暗い海の岸辺に流れ着き、直に波に連れ去られるだろう。
でもそれまでの間、命を噛みしめるその一日。陽の光の中で踊りながら、逃したものを見つけよう。
私達をひとつにする愛。神の内在。一人の人なんていない。
このパターンは私のもの。」
スティーブンはパターンが生物を死に追いやって攻撃してきていると主張し、空爆要請を出しました。しかしケイトは全く違い、パターンは生物にコミュニケーションを図っていると。出血等による生物の死は、そのコミュニケーションによる副作用なのだと。
結果、その考えが合っていて、パターンとコミュニケーションを達成でき、一つになったと明らかにしています。
サブタイトルにある「幸福の消失」とは何のことだったのでしょうか。
これはこのゲームをクリアして、ヨートンに起こった人々のストーリーを追体験したプレイヤーがどのように受け止めたかで、理解の仕方が変わってくると思います。
少なくともケイトには、ヨートンの人達が最後の時を迎えた瞬間、各々が誰かと寄り添い一つになったことを「幸せそう」と語っています。
最後に現れる数列の謎。
この数列の意味は、ダグラス・ホフスタッターというアメリカの学者の書籍から引用されたものらしいです。
クリア当時、全く気にも留めなかったこの数字の意味することこそ、ゲームで伝えたかったことなのです。
以下引用
「人が死んだあとも、その残照は傍にいた人たちの脳の集合体に残る。
主要な脳がなくなった後も、残った人たちの中に光の集合体は輝き続ける。」
人が死に、肉体が無くなっても誰かの記憶の中で生き続ける。
そういうニュアンスのことを光のパターンというものを通じて、描きたかったのだと思います。
良かった点・悪かった点
良かった点
・美麗なグラフィック(とにかく情景が美しい)
・クリア後に余韻に浸れる切なさがある
・雰囲気ゲーの中ではダントツで良作
・手ごろな価格帯
悪かった点
・良くも悪くも移動速度が遅い(遅いからこそ綺麗な景色を満喫できるのだけど…)
・住民の記憶を辿るという設定上、キャラクターが光の形なので名前と人物が一致するまで時間がかかる
・メインの主人公であるケイトの性格が共感できないかも
感想・総評
発売された当初、プレイはしてみたものの何故だか理由は忘れましたが途中辞めにしていました。確か移動速度がすごい遅いのと、期待値が高すぎたのが原因だったかな?
月日は流れ、なんとなく気になりどうせならとプラチナトロフィーを狙って久しぶりにプレイ。
ゲームタイトルがそのままプレイ画面にシームレスに移動。
目の前には美しい景色の田舎町が広がりました。移動速度は遅いですが、情景を楽しみながら光のパターンを追っていき、ヨートンに住む人々の物語を追体験していくのですが…。
個人的にはハマりました。町の人を落ち着かせようと皆に寄り添う神父や、駆け落ちしようとする若いカップル、不倫する既婚者たち。そして、世界中に広がる前に感染源を命を懸けて絶とうとする科学者。
彼らは皆、神経ガスの空爆により最期の時を迎えますが、正直私の目には「幸福な消失」には映りませんでした。
ただ、皮肉なことに人々が最期を迎えるシーンは、光で溢れ儚くて美しい。そう感じました。果たしてこれが「幸福な消失」という意味に当てはまるのかどうかはわかりませんが、ただ言えることは、よくあるバッドエンドであるという風には全く感じませんでした。
切ない中にも達成感や安堵感、いろいろな感情がクリアした後しばらく余韻が残ったことは覚えています。
最初の退屈な感じはどこかに去り、気が付けばこの世界に引き込まれていました。
クリア後、空爆により谷全域の人々は命を落とすという終わりでありながら、後味が悪いわけではなく、人々が迎える最期の時が美しくすら感じてしまう。
クリアした後もしばらく切ない余韻が続く、アクションやシューティングに疲れた時にたまにはプレイしてみたい、そんな感じのゲームでした。
プラチナトロフィー獲得難易度
★★☆☆☆
技術的なことは一切必要なく、☆1つを付けたいところですがこの移動速度の遅さで収集物関連を回収していくのは、根気が必要。ということで1.5よりの☆2つです。プラチナトロフィーを獲るためには最低2周する必要があります。また、トロフィー「戻り道」が判定が微妙だったりして獲得しにくいので注意。
オススメ度
★★★☆☆
2.5よりの3。個人的には星5つくらい付けたい程ですが、基本的な流れがゆっくり歩きまわって人々の想いを辿っていくだけで、インタラクトするものも少なくQTEもないので、ゲーム性はほぼありません(;^ω^)本当に賛否両論分かれるゲームでしょう。ただ、雰囲気ゲーが好きな方やたまにはゆったりとした時間を過ごしたい方は、もし気になったらプレイすることをオススメします。
個人的に特に切なかった最期の時(がっつりネタバレ)
飛んでくる飛行機を政府の救助だと信じ、助けを求めるウェンディー(スティーブンの母親)
その叫びもむなしく、神経ガスによる空爆が…。
パターンの感染を食い止める為に、多くの人の命を犠牲にしたという罪を受け止めるスティーブン。
そう決断した時から最後は自分で命を絶つことを決めていた。
最後にパターンの中にケイトを感じて何か伝えたかったのだろうか。コミュニケーションを図ろうとするも、動揺のあまり手から零れ落ちたライターが無常にも辺りを、スティーブンを炎に包む。